桜 咲く頃に…

「もう、昔の話だから…」

話を切り上げ、側を通りすぎようとしたら
腕を軽く掴まれ 車椅子のブレーキレバーを引き
気が付けば 楓お兄ちゃんに
お姫様抱っこされた形になっていた。

「お、おろして…」
「少しだけ、我慢して」

笑顔でそう告げると、公園に続く階段を登り
あっという間に 丘の上。

久し振りに見た、丘からの風景に
涙が出そうになるのをこらえた。

2度と、
訪れることがないと思っていた場所…

その場所に、
楓お兄ちゃんと一緒にいるなんて…

桜の、木の下まで私を運び
近くのベンチにゆっくりおろし
楓お兄ちゃんも隣に座った。

少しの間、お互いに言葉を交わすことなく
同じ景色を眺めていた。