最近話題のドラマの歌だ。医療系のドラマで姉が黄色い悲鳴を上げながら見ている。なんでも姉の好きな俳優が主演だからとか。

「遅いよ〜!チャイムが鳴ってすぐに来たのに〜……」

振り返って笑う鳥本さんに、「ごめん」と僕はうつむく。彼女を敵に回してはいけない。怒らせてはいけない。

「早速、弾くよ。どんな曲がいい?」

僕はピアノの椅子に座り、かばんの中から楽譜を取り出す。鳥本さんはしばらく楽譜を見つめ、「これ!」と僕に楽譜を渡した。シューベルトのさすらい人幻想曲か……。指の動きが複雑で、作曲した本人も弾くのに苦労をしたらしい。

「これってシューベルトの曲だよね?」

楽譜を見つめ、鳥本さんが訊ねる。僕はこくりと頷いた。

「フランツ・ペーター・シューベルトは、オーストリアの作曲家。ドイツ歌曲において功績が大きく、歌曲の王と呼ばれることもある。幼い頃から才能を発揮し、一目置かれていたんだって」