翌日、僕はあまり眠れず寝不足の重たい頭のまま学校へと向かう。

鳥本さんは、たまたま第二音楽室の前を通ったらしい。その時に僕のピアノと歌声を聴いて、誰が弾いているのか知りたくなったそうだ。

「だって、とっても上手だったから!」

人から褒められてビクビクと怯えたことは生まれて初めてだ。僕はピアノのことは秘密にしておきたい。だから、鳥本さんに口止めをお願いした。

「じゃあ、合唱部の練習がない日はピアノを聴かせてよ!」

こんな条件も出されてしまった。しかも、早速今日が練習がない日という地獄。シューベルトの魔王が一瞬頭に浮かんだ。

「琴音ちゃん、おはよう!」

「guten Morgen!(おはよう!)」

なんというタイミングだろう……。まさかの会いたくない人がすぐ近くにいるなんて……。しかも、僕の真後ろだ。でもここで走り出したりしたら不自然だしな……。

鳥本さんが友達に僕のことを言わないか、心臓がドキドキする。僕はこっそり聞き耳をたてた。