僕がそう呟くと、鳥本さんは「なんでフルネームなのよ!」と明るく笑う。ああ、最悪だ。なんでこんな人にバレてしまったんだろう……。

鳥本さんは、ドイツに住んでいた帰国子女だ。常にクラスの中心にいて、その明るさでクラスのムードメーカーとなっている。隅に隠れて過ごしている僕とは大違いだ。

「この曲って、あの話題の映画のやつだよね!あたしもその映画、観に行ったんだ!感動して泣いちゃったよ〜」

冷や汗を流す僕に、鳥本さんはニコニコしながら続ける。

「ねえ、もっと聴かせてよ」

平凡な運命の歯車が大きく狂った瞬間が見えた気がした。