あの後、泣きながら夏目は私を抱きしめて部屋に戻った。


部屋に戻ったにもかかわらず、ずっと離れなくて。


「な、夏目?もう泣き止んでくださいっ」


私の腰にずっと抱きついたまま、顔を私の服に埋めている。

正直、可愛い……。


泣いて、お母さんに甘えている子供に見える。


「あの…私も落ち着きましたし、夏目さん?」


そう言っても断固拒否なのか、全く離れない。


昨日のあなたとは大違いね。あの冷たく凍った瞳をもつ人じゃなくて、純粋に涙をながす男の人。


まるで、あなたの冷たい氷の瞳から溶けてくる水のように、止めようとしても止められない。


「……お前っ…」


やっと喋ったと思ったらじっと顔を見つめられ、また顔を埋めてしまった。


「……悲しかった、ですか?」


「っ!?」


図星みたいにびっくり顔でこちらを疑視している。

実際、自分もびっくりしている。


なんとなく、夏目がこう思っているのかなと思ったことを言っただけでほんとに当たっているとは思わなかった。


「……はぁ。お前にそんなことがあったなんて……知らなかった」


「当たり前です。誰かに話したのはあれが初めてだったので」


そうか、と呟いたまま横に仰向けで寝転んだ。


「望夢って……誰だ?」


「……え?」


「言ってただろ?望夢に出会ってとかなんとか」


「望夢は……」


なんだろ……。

なんか、望夢のこと夏目に話したくない。


いや、正式に言うと話すのが怖い。


「望夢は……ただの友達ですよ。親友でした」


必死で誤魔化したけど、大丈夫だったかな?


「…………そうか、親友か」


「…………」


「……俺はもう一度親父たちの元に戻るが、お前はどうする?夕食持ってこさせるか?」


「…いえ、あまり食欲も無いですし、夏目が帰ってくるのを待ってます」


「遅くなったら、先に寝ていろ」


そう言って、部屋を出ていった。







しーんと静まり返る部屋は嫌い。


一人で暗闇の中に閉じこもる自分も嫌い。



「私は…………」






”ココ”にいていいんですか?