病室の窓からは薄っすらと赤ずき始めた紅葉が見える。

目を開けて、最初に見えたのは窓の側に置いてあった大きなウサギのぬいぐるみ。

ぬいぐるみの存在感が大きすぎて、私に語りかけていた人より先に目についた。

重く鉛が沈んだような身体の感覚。
それはとても不愉快だった。
まるで自分の身体ではないような。

「気づいたの?」

先程からずっと近くで私に声をかけてきていた男性にようやく視線を動かした。

頭が思うように働かず、言葉を出さないまま、虚ろなまま、部屋と自分の身体に視線を一周させた。


質素な部屋、
白いカーテン、
繋がれた点滴、
病院の入院着。

「……私、助かったんだ。」

何も考えてなかったのに、
何故か口に出た言葉。
何故、『助かった』と私は思ったのであろうか。

何もわからない。
思い出せないのだ。

自分に何があったのか。


私が誰なのか。