「それから、鷹野って俺のこと呼びますけど、下の名前知ってます?」

ソファに腰掛けながら後ろから抱き締められている、この状態。寒くないように、しっかり毛布までかけられている。至れり尽くせりかい、となんだか変な気分。

「んー、なんだっけなぁ」

「やっぱ、俺への興味ってそれくらいなんだ」

彼の声が耳元でする。こんなに、くすぐったいことってなかなかない。

「知ってますよ。槙(まき)でしょ?」

「なんだ、知ってて。ま、許すけど。あ、呼び捨て、いいなぁ」

夜が明けてゆく。
私たちは少しまどろみながら、お互いのあたたかさに身を任せる。

「やっぱり、俺、寧々さんを諦められないなぁ」

「なんで?だって普通の女だってわかったでしょ」

「寧々さんは特別。だめだ、俺、明日から寧々さんがいない生活なんか考えられない」

首筋に軽くキスされる。

「こら、何すんの」

ちょっと怒ったふりをする。
なんか恋人じゃないのに、恋人みたい。

この人、安心する。なんだかそう思えた。