「どうぞ」

なんだよ、その余裕のある笑みは。
くそ、イケメンめ、覚えてろ!と睨み付けた後、心を落ち着かせてワインに向かう。

まず色、そして空気に触れさせて香りを確かめる。この独特の気品の高さ!まさにこの銘柄!と飲む前から感動してしまう。
口に含むと、その味と香りと深みに、喉を通っていくまでの至福といったらない。

「寧々さんに飲んでもらいたくて、ずっとキープしてたんです」

隣からの声に、現実が戻ってくる。
ワインに罪はないのに、こいつのおかげでこんなお宝ワインが飲めているのに、今は恋愛とかごちゃごちゃしたもののことを考えたくないのに。

「こういうのは、もっと大事なときにとっておいた方がよかったんじゃない?」

飲んでおきながら。至福を味わったくせに、素直に美味しい、ありがとうと言えない辺り、私は歳をとってしまったんだなぁと悲しくなる。

「今が一番大事なときなんで」

彼は私の瞳をじっと覗き込む。そんなに熱っぽい瞳をするんじゃない!とワインに視線をそらす。

「こういうのはね、1日だけの夢でいいのよ」

もう一度、ワインを含む。
香りが何重にも変化するような、はじめからおわりまでの濃厚な味。

「じゃあ、俺とも1日の夢でいいから」