白銀のカルマ

 娘に無理やり言わせているのだと疑った少年側の父親は、自分の息子の頬を思い切り殴りつけた。

鼻血を吹き、その場に激しく倒れ込んでも尚、その頭を掴んで土下座させようとしていたため、廣瀬夫妻は『頭を上げてください、うちの娘も悪いです』と何度も相手側に謝った。

必死に宥めたことで、穏便に済ませることが出来たが娘は不機嫌なままだった。

『……どうしてこんなことをしたの、舞香ちゃん』

香織は何度も娘に理由を尋ねたが、唇を噛みしめたままでようやく結んでいた口を開いたかと思うと、生まれて始めて両親に向かって反抗的な態度を取った。

『パパやママに私の気持ちなんか分からないよ!』

『……おいっ!待ちなさい、舞香!』

そう叫んだ後、自室へ駆けあがった舞香の後を昇は追おうとしたが、香織は夫の腕を掴み、数回首を横に振った。

香織には舞香の心の叫びが痛いほど分かった。

実は、舞香は自分達の本当の娘でない。

香織には母の不妊が遺伝し、何年経っても香織と昇の間には子どもが出来なかった。

夫婦仲が良ければそれだけで充分だったのだが、過重労働と育児で倒れた幹枝から舞香を突然託された。

廣瀬夫婦は、舞香を本当の娘のように可愛がり慈しんできたつもりだったが、彼女の中で次第に抱えきれない何かが生まれたのかもしれない。

かつての自分もそうだった。

周囲とは立場が違いすぎて分かり合えないことが多く、教室の隅で本を読んでやり過ごした休み時間など数え出したらキリがない。

思春期を境にそれは更に顕著なものとなり、現実と隔絶された環境を求めるようになった。

自分はそれなりに世間と距離を取ることに成功していたと思うが、それでもたまに〝あっち″側に行きたくなることがよくあった。

〝……あぁ。冷たい。″

靴を脱いで川に入ってみる。とても気持ち良い。

どこか心地よさを感じたまま、安らかな場所で永遠に眠れたら良いのに。

そんな思いを馳せ中洲に向かって歩いていた時のことだった。