白銀のカルマ

『院長はどこだぁ!!!』

刃物を振り回して乱入してきた女の目的は、院長だった。

そしてこの女こそ、幹枝を誘拐して出所した実母・大島頼子だった。

まさか報復されると夢にも思っていなかった院長は、その場で腰を抜かした。

『あなた、立って!』

妻・麻子は必死で夫を引き上げようとしたが、女一人の力では到底持ち上げることも出来ず、その場で腰を抜かしてしまう。

完全に逃げ遅れた夫妻を追い詰めた頼子は仁王立ちのまま、色んな人々を切りつけ血に染まったナイフを思い切り振りかざした。

『危ないっ!!!』

ズシャッ。

肉が切れ血が噴き出る音が会場全体に響く。一同は血の惨劇に目を覆った。

白いワイシャツの胸のあたりから鮮血が滲み滝のように流れ落ちる鮮血。

心臓を一突きにされた瞬間、足元はふらつき視界は淀み意識が薄れ、その場で勢いよく倒れ込んだ。

『正徳!!!』

しかしそれは〝院長″ではなかった。

刺されたのは幹枝の叔父・正徳だった。

父親の身代わりに刺された息子を見て、泣き叫ぶ祖母・麻子。

健正はあまりの凄惨な出来事に声が出なかった。

『誰か救急車!警察呼んで!』

『………あ、あぁ………、違う……違うの、私……』

自分の犯した罪の重さにようやく気づいたのか胸から血を流す正徳を見て、狼狽した頼子はその場に立ち尽くしたまま、わなわなと震え始めた。

瀕死の重傷を負った正徳の応急処置を行う医療関係者以外は、背後から近づき血まみれの頼子を取り押さえようとした。

しかしその気配に気づいた頼子は、スペアで持っていた果物ナイフを取り出すと周囲が自分に近寄れないよう十分威嚇した所で、自分の首にナイフを押し当て勢いよく引いた。