白銀のカルマ

『可哀想に……どうしてあの子だけあんな目に……』

止めどない涙を流す妻を前に腕組みをしたまま、終始無言の院長。

何を考えているのか読み取れないほど鉄の仮面を纏った院長だったが、リビングの静寂を引き裂くような低音が響かせた。

『………私が何とかしよう』

おそらく証言者である使用人も院長夫人も、この時院長から発せられた言葉を正しく理解できていなかっただろう。

実は院長は数年前から、盗撮されたり、帰り道で待ち伏せされたりすることが多々あった。

病院では患者に慕われる良い院長であり、家では立派な家長であるこの男には、実は〝黒い噂″があった。

〝滝川院長の愛人の子どもは殺される″

〝運が悪いと愛人も殺される″と。

しかしそれは作り話でも何でもなかった。

元々そういった思考の持ち主だった。

〝自分との関係をネタに金銭をせびるタチの悪い愛人から子どもを奪う″

あの〝女″は、妻や娘の周りをわざとうろついて目障りだったのでちょうど良い。

あいつの子どもを死産ということにして、それをうちの孫娘にすれば全ては丸く収まるはず。

娘の最大の不幸さえも、全て自分の得手勝手な計画に利用しようとするほどの畜生だったのだ。

 夫人との会話から二日後、健正は看護師を授乳室に侵入させ、早速孫娘とすり替えさせた。

看護師の暗躍により実の娘は再び活気を取り戻したが、当の愛人は子どもが亡くなったショックにより勢いは嘘のように消えた。