白銀のカルマ

 この茶封筒に入ってたのは、一枚の手紙だった。

その送り主は最近亡くなった幹枝の母で、今日初めて封を切ったと言う。

「……今からお話するのは〝私の出生″に関わるお話です……」

1962年5月16日、午後22:27頃。

旧姓は滝川。

3年前逝去した母・美鈴の娘として、この世に生を受ける。

……そのはずだった。

〝本物″の滝川幹枝はこの世界の光を見ることなく、この世を去った。

死産だったのだ。

かなりの難産が影響してか、母体の方も出血がひどく、意識が一週間ほど戻らなかったそのさ中
″あること″が水面下で行われようとしていた。

この手紙に記載されている幹枝の祖父母の会話の内容は、当時滝川家で深い信頼を寄せられていた
使用人の証言を元に構成されたものである。

自分に対して家庭内暴力を振るってきた夫が事故死し、出戻った後に発覚した妊娠だったため、
周囲の人間の中には美鈴の心理状態を鑑みて堕胎を勧めた者もいたが彼女はそれでも頑なに拒否し続け、
新たな命と共に一歩を踏み出そうとしていた。

前を向いたその矢先で起こったあまりに残酷過ぎるこの現実に、先代の院長の妻・麻子は体を震わせながら
夫・健正にこう呟いた。

『ねぇ、あなた。何とかならないものかしら……。私の口からお話なんてできませんわ……』

涙で声を何度も詰まらせる夫人。
院長は薄暗いリビングで妻と二人でいた。

しかし、夫は口を結んだまま、壁の向こう側をただただ見つめているだけだった。