白銀のカルマ

「ここなら………」

 親子が見つめていた先には、田園風景に囲まれた老年人口の割合が高い田舎町が広がっていた。

本心を言えば、もっと遠くへ行きたかった。

けれどそんな金銭的余裕はなく、以前住んでいた街から車で2時間程度で来れる場所を新天地として選ぶのが精一杯だった。

しかし情報伝達速度が遅いこの土地では、私達の存在に気づく人間はおらず、幸運にも介護職で再就職することが出来、見事社会復帰することに成功した。

主治医の都合で1ヶ月後に畳んでしまう病院を、特別に搬送先の医師から紹介されたため、自宅からは5分とかからず、今までの苦労が嘘のように思えてくるほど、次の土地では私達にとって良い待遇が待ち構えていた。

「……担当医の水森です。短い間ですがよろしくお願いします」

「……奥野優一です。よろしくお願いします」

母は片時も息子の傍を離れなかった。

リハビリ施設に行く時はもちろんのこと、心療内科に行く時もその他の時もずっと一緒だった。

席を外して欲しいと頼まれない限り、母は息子の横に居座り続けた。

「………苦しいことや悲しいことは我慢せずどんどん吐き出していきましょう」

「……はい」

……僕はこの時、気のない返事をしたのを覚えている。

あの一件で誰のことも信頼できなくなっていたから。

どうせ誰も僕の気持ちなんて分かってくれないと思い込んでいた。

でもあなたは違った。

あなたは僕のことを誰よりも分かってくれた。
僕の心の痛みを共有してくれた。

いつも横に母がいつもいるから、心につっかえた部分を吐き出すことなんて不可能だったのだが、そのことも考慮して二人だけの時間を設けてくれたりした。

あなたは暴利を貪るどころか、薬も睡眠薬くらいで、本当に良心的だった。

よく眠れるのは薬を飲んだからなのか、あなたが話をよく聞いてくれるからなのか、よく分からないが僕は今でも後者だと信じている。