白銀のカルマ

「……お前、恵莉花か?」

「え……?どういうこと?」

突然、訳の分からないことを口走る樋渡。

追い詰められたせいで気がふれてしまったのではないかと周囲は不安になったが、その問いに対しにこやかな表情で会釈する優一。

「…お久しぶり。樋渡さん」

「!!」

歳の割に落ち着きを払ったあの穏やかな喋り方。

全てを悟ったようなあの表情。

これは明らかに優一の振舞いではなかった。

「…千明、久しぶり。ずっと会いたかった…」

「……母さん……!?」

「手…痛かったでしょ…?泣かなくて偉いね…」

自分の胸に息子を抱き寄せると、腕で優しく包み込んだ。

恵莉花を知る一同は皆、思いがけぬ親子の再会にもらい泣きをしつつも、一言一句聞き洩らさぬよう全神経を集中させた。

本来こんな供述に何の信憑性もなかったが、それでもこの状況を否定する者は一人もおらず周囲は素直に聞き入った。

不要な治療や検査を強要し、診療報酬の不正請求に薄々勘づいていた篤彦は真実に近づくため恋人であり看護師である恵莉花にも協力を募った。

二人は極秘で犯罪に手を染める病院関係者らを追い詰める証拠を集めていたつもりだったが、まさか恵莉花の妹が会話を聞いていたとは知らなかった。

幼少期から入退院を繰り返し、病院の内部の話を聞くことが多かった優莉花もそのことについては噂程度にしか聞いてなかったが、知り合いの急死や容態の急変が相次ぎ、少しずつ義兄や姉らの会話が現実味が帯びていった。

〝どこに持ってこうってんだ?″

「事の真相を知った妹は命を懸けて改竄カルテを死守してくれたけど…」

恵莉花は樋渡の仲間に捕らえられ、口封じのため乱暴されそうになったが必死の抵抗の末、何とかその場から逃げ出すことに成功。

しかし、病院から少し離れた道で事件は起きる。

「…後ろに気を取られていて全く車に気づかなかった」

あと少しで逃げきれるところだったが、車の存在に気づかず不運にも撥ね飛ばされてしまった。