白銀のカルマ

『えっ……いいです』

『……遠慮しなくていいから』

〝荷物″を半分持とうとする彼に小さく反発しながらも頬を赤らめ狭小スペースで大量の洗い物を黙々と洗う心と体が矛盾した自分。

『あ、ありがとうございます……』

『いやいや、いっつもありがとう』

『……そんな、感謝されるようなことは……。家事の大半は奥様がやってくれてるので……』

『いいよ。恵莉花は休んでて。』

『………!』

彼は確かにその時私を『恵莉花』と呼んだ。

互いの将来を誓い合ったあの頃と同じように。

『……ありがとうございます、篤彦さん』

本当はもっと会話をしたくてたまらなかったのに名前を呼んでくれてもそっけない返事しか出来なかった。

でも言葉を交わせばまたあの時のように何かを望んでしまう。欲してしまう。

それが怖くて私は目を逸らし逃げ出そうとしたがこれも徒労に終わった。

『……この後さ、少し時間ある?』
『え?』
『……少し話があるんだ。どうして……急に僕の前からいなくなったのか。それを知りたいんだ』

10年近く沈黙を貫いた暗い過去。

打ち破るのは最も恐ろしいことだったが私は彼の真剣な目から逃げ出すことが出来ず、疎遠になった本当の理由を彼に打ち明けることになった。

幹枝に散々な目に遭わされたことは事実だがそれでも彼女に同情する部分があった。

叶わぬ恋に地団駄踏み指を加えてその一部始終を見つめることしかできない歯がゆさ。

男たちに襲わせたあの日の夜も彼女は涙ながらに『本当はこんなことしたくない』と訴えていた。

あれが彼女の本心なのだと思う。

それを考えたら彼女を本気で責め立てることは容易ではなく妹のことで彼を苦しめたくなかったので言うつもりはなかったが彼はどんな真実だろうと知ることを望んだ。

だから私はあえて苦い記憶の蓋を開けた。