どうしよう。

お弁当を両手で挟み、社員食堂の入口で1歩も動けないでいた。

いつも一緒にお昼を食べる同期の 野々宮 雪乃(ののみや ゆきの)ちゃんが、お休みの時はいつも自分の机で食べているのだけれど、今日の私の机の上は、とてもじゃないけどお弁当を広げられるような状態ではなくて。
それに、いつも食べている給湯室は、お客様用の手土産に占領されちゃっていて、仕方がなく社員食堂に食べる場所を求めて来たのは良いけれど、人の数の多さに圧倒されて足が動いてくれない。

会社の入っているビルは、複数の企業が共同で社員食堂を利用しているので、とにかく広くてメニューも豊富で人気がある。
けれど、お弁当組の私には縁のないところで、来た事はほとんど無くて、来たとしても、ゆきのちゃんと一緒だったし、もっと人が少なかった気がする。

そう言えば、最近リニューアルしたと言っていたと、今更ながら思い出しても何の役にも立たない。

やっぱり、ここは諦めてどこか座れるところを探しに行った方が良いかなぁ。

何分経っても、中に入っていける気がしない。
人が嫌いなわけではなけれど、知らない人ばかりの大勢の人の中で、ひとり黙々と食べるのは、やっぱり勇気が必要で、私にはその勇気が無いみたい。

それに、立ちすくんでる場所のせいなのか、皆からじろじろ見られていて、いたたまれない。

やっぱり自分の机で食べよう。
机を使わなければ良い事だもん、そうだ!そうしよう。
この際どんなに不便かなんて問題じゃない。

意を決して、くるっと回ると、目の前に淡いクリーム色のワイシャツにラベンダー色のネクタイが飛び込んできた。

「えっ。」
「おっと。大丈夫?」

聞き覚えのある声、服の色、慌てて見上げると、
両腕を軽く上げた高梨さんが、心配そうに私を見ていた。