それから箇条書きでメインテーマや構成など頭に浮かぶまま書き付けていった。先に述べたような母の不可解な行動の理由、それに一々対処していく祖母と私。三人家族の秩序の保ち方とそれぞれの力関係、思惑、心理戦。これらを描ききることができれば面白い読み物になるのではないか。挑戦してみる価値はありそうだと、私は思ったわけである。また、このような家族形態を記録することは何かしら意義のあることだとも思えた。しかし1番の理由は、私自身しばしば無力感というか家族の限界を思い知らされるから、鬱屈した思いを吐露したいというものかもしれない。家族の限界や無力感については後に詳説するが、一般的に言えば、同じ面子が共通の難問を解決しようとしても常に同じ結論に達さざるを得ないがゆえに解決には決して至らない恐れがあるという悪循環である。
 動機について加えて言うなら、長年母の病気に悩まされ続けてきたのだから今度はそれから社会的恩恵を受けてやろうなどという負けず嫌いの性格よりむしろ邪な思惑もないわけではない。家族をダシにして小説を書くなど業が深いと太宰に幾度かたしなめられ、その度にもっと堅実な生き方をしようと反省しつつも希望ないし野望を捨てきれずにこうして書いているわけなのである。私にとっては途方もない無謀な挑戦ではあるのだが・・・