アクセルをいくら踏めど速度メーターに比例してエンジン音のうなりと排気ガスが増加するだけで車はうんともすんとも言わない。しまいには排気ガスが車内へ逆流して何やらきな臭い臭いが漂ってくる始末である。どうやら完全にタイヤがstuck(埋まって)しまったようだ。
 駐車場の真ん中でスタックしてしまった我が愛車。これ以上車内にいてもらちがあかないと思った私はしぶしぶ車を降り玄関から雪掻き用の金属製スコップを持ち出してきた。前タイヤ、後タイヤ周囲の雪を少しずつ掻き出していく。雪は固く締まっており作業は困難を要した。ある程度掻いたところでまた車に乗り込みエンジンをかけアクセルを踏み出す。・・・まだ動かない。前進も後進も不可。(まだ掻き出さなきゃならんか・・・。)と再び車外へ出てさらに深くタイヤ周りの雪を掻き出す。
 そんなことを一時間ほど繰り返し遂に進退の窮まった私は、言うことを聞かない愛車に愛想を尽かしそのまま放置してしまったのであった。
 それから一両日して発せられたのが祖母のあの注意だ。(時間も経ったことだしそろそろいいんでねが)と時間がすべて解決すると思っているお気楽な私であったが・・・。
 大方の予想通り事態は何も進展していなかった。むしろ悪化していたとも考えられる。
ショックを受けつつも性懲りもなくエンジンをふかし続ける私。小一時間ほどして、時間が夜だったのと、車のエンジン音ばかりが闇にこだまし、なかなか戻らない私を心配してか祖母と母とが様子を見に来た。 
 当初は、懲りずにアクセルを踏みながらほんの気持ちだけ前後に揺動する愛車と格闘している諦めの悪い私を駐車場の脇から見守る二人であったが、やはり観念した私が車外へ出るのを見て事の次第を理解したらしい。
 「動がねんだが。」怪訝そうに祖母が問う。
「雪の中さタイヤ埋まっちゅうはんで、まいね。」
 というわけで改めて三人で前後のタイヤ周りの雪を掻き出すこと一時間。足下からの冷えが限界に達しつつあった私は、
 「そろそろいんでねが。車動かしてみるはんで。」
とエアコンとエンジンの余熱が残る車内へ滑り込んだ。(いい加減この辺で勘弁してくれ。)と祈るようにエンジンをスタートさせる。しかし、私はどこまでも甘かった。先ほどと情況はちっとも変わっていなかった。