早晩その機会が到来すると考えるのが現実的だ。それに祖母に依存しきりの生活では我々の自立心が育たずひいては母の病状改善の妨げともなりうるであろう。これ以上の摩擦を回避し、和合するためには別居が最善策なのかもしれない。家庭経済の仕組みが分かれば、母にも経済感覚が身に付いて無駄遣いを改めることになるかもしれない、否そうせざるを得なくなるのは明らかである。祖母にとっても自由な時間とお金が増え、もっと余生を充実させることができるはずだ。母と私にこれほどまでわずらわされることがなければ、趣味の日本舞踊なんかもっと極められるのにとその才能が惜しまれてやまない。家元にもその才能を認められ、名取取得などさらなる向上を期待されていた祖母が、我々によってそれを断念せざるを得なくなってしまったことは、こうして書いていてやりきれなくなる。本人は、やるだけのことはやったから悔いはないと言っているが、その表情にはそう割り切らなければ前には進めないのだという悲壮感が漂ってならない。
こうして二日間、祖母と私との冷戦状態は続いた。その間、食事の準備等身辺のことは皆母がやってくれた。普段でもゴミ捨て、洗濯、弁当の準備、ベッドメイキング等よく世話をしてくれるが、こういうときの母は実にかいがいしいものである。母親の愛情をストレートに感じずにはおれない。自然と感謝の心持ちになる。
一方、私はというと、突然断たれた祖母とのコミュニケーションに伴う不自然で重苦しい沈黙、無理な意地の張り合いから心理的圧迫・窮屈さを感じつつ半面一切の小言、指図を受けずに済むという解放感にも覆われるという複雑な心境でいた。二人だけでいる時は一番心苦しかった。いっそのこと私の視界から消えてくれれば楽なのにと思った。だから極力同じ場を共有するのを避けていた。もう雪掻きをしなくても注意されることはなくなった。しかし我々の冷戦の間にも積雪はその厚みを増していった。
二日後、今まで我慢していたのであろう祖母が耐えかねて口を開いた。
「哲夫。駐車場の車もっと奥さどかしへ。あれだば(来客者が)車回せねはんで。」
機嫌の良くない時は必ず名前を呼び捨てにするのが祖母の癖だ。口調も荒く、緊張し強張っているのが分かる。
こうして二日間、祖母と私との冷戦状態は続いた。その間、食事の準備等身辺のことは皆母がやってくれた。普段でもゴミ捨て、洗濯、弁当の準備、ベッドメイキング等よく世話をしてくれるが、こういうときの母は実にかいがいしいものである。母親の愛情をストレートに感じずにはおれない。自然と感謝の心持ちになる。
一方、私はというと、突然断たれた祖母とのコミュニケーションに伴う不自然で重苦しい沈黙、無理な意地の張り合いから心理的圧迫・窮屈さを感じつつ半面一切の小言、指図を受けずに済むという解放感にも覆われるという複雑な心境でいた。二人だけでいる時は一番心苦しかった。いっそのこと私の視界から消えてくれれば楽なのにと思った。だから極力同じ場を共有するのを避けていた。もう雪掻きをしなくても注意されることはなくなった。しかし我々の冷戦の間にも積雪はその厚みを増していった。
二日後、今まで我慢していたのであろう祖母が耐えかねて口を開いた。
「哲夫。駐車場の車もっと奥さどかしへ。あれだば(来客者が)車回せねはんで。」
機嫌の良くない時は必ず名前を呼び捨てにするのが祖母の癖だ。口調も荒く、緊張し強張っているのが分かる。
