『彰人、来い!』

兄貴はよくキッチンを使って、プリンを作ってくれた。

これは、兄貴の祖母が作ってくれたものらしく

親父の浮気が発覚して、実家に帰っていた時に

よく作ってもらっていたらしい。

甘く優しいこの味は…………

兄貴の安心材料だったようだ。

その大切な味を再現しようと、兄貴は何度も作ってくれた。

初めはすが立ち、ボソボソしたプリンは

子供心にも美味しいとは言えない代物だったが…………

諦めることなく作ってくれた兄貴は…………

一年もする頃には………店に出しても良いくらいの味に仕上がった。

俺にとってこのプリンは………

今は亡き母の味であり

今のお母さんの苦しみの味であり…………

兄貴の愛情の味なのだ。

どんなに『美味しい』と言われる店のプリンでも……

このプリンに優ものはないのだ。