「う...。」
愛菜が目を覚ますと、そこは車の中ではなく、家具などが何も無い真っ白な部屋であった。
そこに佇む1人の少女を除けば。
「誰...?」
と、声をかけると少女はパッと彼女の方を見て微笑み、口を開ける。
「兄さん。目を覚ましたわ。」
すると、暫くして部屋に入ってきたのは、龍であった。
「…せんせ?」
訳が分からないと言いたげな愛菜を放って、少女の肩に手を置き、何かを話している。
「うん、ありがと。美里奈。」
と、龍が少女、美里奈の頭に手を置き、フラリと愛菜の元に行き、
「君のだぁい好きな先生だよ?もっと喜びなよ。」
と幼い子どものように笑う。
「…どういう…。」
と愛菜が言うと、美里奈は軽い溜息をつき、
「貴女、如何して彼みたいな男に引っかかったんでしょうね。ご愁傷さま。」
と言った。
言葉の意図が掴めない愛菜を無視して、龍は羽織っているコートの中から何かを取り出し、愛菜に見せつける。
それを見た彼女の顔はみるみるうちに青ざめた。
すると、
「ナイフを見ただけで、良い反応をするねぇ。最近、そういうのなしでやってたから、最高だよ。」
とペロリと出したナイフを舐める。
「せんせ…?ほんとにどうしたの…?」
現実を受け止めきれていない愛菜はフルフルと恐怖に身体を震わせ、縋るように龍をみる。
しかし、
「あー…ごめんね?そういうの無意味。むしろ唆るんだけど、」
と失笑し、龍は愛菜の手にナイフを刺した。
「ぎゃああああああああああああああぁぁぁ!!!痛いっっ!!痛いよぉ!!」
愛菜の叫び声が部屋に木霊する。
その声を聞いた途端に龍は頬を上気させ、興奮したかのように、身体を震わす。
彼は理性を失ったのか何度も何度も愛菜を刺す。
しかし、急所には中々当たらず、愛菜は死ねずに、叫び続けている。
暫くして、叫んでも目の前の獣を悦ばすだけと理解したのか、愛菜は
「せ…んせ……なんで…!こ…んな…こと…。」
と、必死の思いで、龍に問いかける。
すると、龍はニヤニヤと笑い、
「楽しいからさ!理解できないだろうけどねっ!!!」
と声を上げて笑いながら、愛菜の心臓に向かって何度も何度も抉るようにナイフで刺す。
「兄さん、もう死んでる。」
と、美里奈が声をかけるまで、何度も何度も。
何も無かった真っ白な部屋は美しい紅色で飾られた。
先程まで生きていた物と一緒に。
そこに立つ2人は儚げでとても美しかった。
どう見ても彼らが殺したはずなのに、誰も彼らが愛菜を殺したとは言えないくらいに。
