[よくお聞き、私の娘]

『なあに?』

不意に思い出したのは、母の言葉。

母は、布の袋に入った木の実を見せながらフーの頬を舐める。

[人間たちが忘れちまった知恵さ。これはチフスを治す力のある薬]

『ん~?』

[だけど、これは飲むと体温がコントロールできなくて、ここでは凍えて死んじまう。だから、この薬は絶対に誰かが傍で温めやらなきゃいけないよ]

母の言っていることは難しくて、何を言っているのか全く分からなかった。それでも、母の真剣な目にフーも自然と緊張した。

[いいかい、これは誰にも言っちゃいけない森の知恵だ。お前は私の娘。だから教えてんだからね]

『まんま、ねんね!』

[あんたは本当に聞かない子だねぇ…]

顔を舐めて、腹の下に入れてくれた母の体温は温かくて、そこが大好きだった…。