基準値きみのキングダム



「コーヒー、ブラック、好きだよね」

「あー、ありがと」



深見くんって、ブラックコーヒーが好きだったんだ。

知らなかった。



コーヒー缶を受けとった深見くんに、上林さんがはにかむ。

その笑顔は、私が見ても、うっかり惚れてしまいそうなくらいにはかわいかった。


こんなかわいい子が、深見くんのことを好き……なんだよね。




上林さんからふわふわ漂う、女の子っぽいシャボンの匂いを思い出して、胸が甘く締めつけられる。



並んでいても、不釣り合いなところがない。

深見くんとお似合いの女の子っていうのは、上林さんみたいな女の子のことを指すんだ、きっと。




唯一、違和感を覚えるとしたら。



それは、深見くんが浮かべている表情。

今、上林さんたちに囲まれて深見くんが浮かべているのは、私の知っている笑顔より、妙にへらへらしているというか。


わざと軽くしている感じがして、変っていうか────。





「杏奈ちゃん」

「うぁっ?!」