こくり、頷くと深見くんは「うるせーし、聞く耳持たないやつばっかだけど、基本いいヤツらだから」と耳もとで囁いた。
そばにいた畠くんが「おい、恭介聞こえてんだよ。聞く耳持たないとか余計なこと言いやがって」と苦笑する。
「はは事実じゃん。てか、お前らいつまでここで話し込んでんの? 座って昼飯食おーぜ。その方が話しやすいだろ」
まるで鶴の一声。
深見くんのひとことで、立ち話していたみんながわらわらとプレハブの奥まで移動をはじめる。
ドラムセットに、マイクスタンド、いくつものアンプ……ごちゃっとした空間に、楽器のある空間特有のむんとした匂いが立ち込めている。
慣れない空間、慣れないひとたち。
落ちつかないそわそわとした感覚を持て余したまま、カーペットの床に腰を下ろした。
お弁当を持ってきているひとはほとんどいなくて、コンビニ弁当や購買のパンを各々食べはじめる。
周りの様子をうかがいながら、お弁当の蓋をそっと開けた。
ちまちまとふりかけごはんを口に運んでいると、突然、ビイィンとベースの音が響く。
そのまま、無遠慮にスラップフレーズが始まって、軽快なサムピングの音が混じり始めて。
さすがに気になって、音のする方を振り向くと。
「椋、もう食い終わったのかよ」
近衛くん、いたんだ。
気づかなかった。
見れば、近衛くんはピアノ椅子に浅く腰掛けて、インディゴのボディのエレキベースを相棒のように膝の付け根に乗せていた。



