基準値きみのキングダム



「ありがとう」

「うん。それ、りんご?」




裏面を焼いている間に、とりんごを8等分のくし切りにしていたら、深見くんが興味津々に覗きこんでくる。



やめてほしい。

こんな距離にいられると、手元が狂ってしまいそう。



平静を装いながら、りんごの皮を整えていると。




「すげー、うさぎじゃん。てか、こっちはハート?」

「う、うん」

「器用だなー」




キラキラした目で見られても、困ってしまう。
そんなにすごいことじゃないよ。


深見くんだって、練習すればあっさり習得できると思う。


照れをごまかすために、余計なことを口走る。




「風邪をひいたときだけ、ママがりんごをうさぎ形にしてくれたの。それが、甘やかされてるって感じがして、嬉しくて……」




今は、私が甘やかす番だから。

ママがきっとしてあげたかっただろう分まで、私が奈央と京香にしてあげたい。




「京香は特に、ママのうさぎのりんごを知らないから」

「そっか」

「うん、それで……」




って、私、なに聞かれてもないことをべらべら話しているんだろう。

人の家の話なんて、興味ないよね。


これだから私はだめなんだ、と反省モードに入る私とは正反対に、深見くんは口角を上げる。




「森下のそういうとこは、母親譲りなんだな」




知れてよかった、なんて、いとも簡単に私をすくい上げる言葉をくれるから、私はまた困ってしまうのだ。