基準値きみのキングダム



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𓈒



「────て、お姫さまの勇気に胸をうたれたお妃さまは、ついに改心したのです」

「きょーすけくん、かいしん、ってなぁに?」


「自分が悪かったことを認めて、反省するってことかな」

「じゃあ、もうお妃さまは、お姫さまにいじわるしない?」


「うん、たぶんな。それから……100年の呪いがとけたお姫さまと王子さまは結ばれて、お城で末永く幸せに暮らしました」




絵本を読み聞かせてもらっているのは京香なのに、思わず耳をすませてしまう。


深見くんって、物語を読むのがすごく上手い。



柔らかいテノールで、感情をこめて丁寧に紡がれるおとぎ話についつい夢中になってしまった。


絵本は私が幼い頃からこの家にあったもので、その内容はよく知っているのはずのもの。



なのに、深見くんが読むと新鮮にわくわくするから不思議だ。




「めでたしめでたし」




あ、終わっちゃった。



きゃー楽しかった、と興奮冷めやらぬ京香とは正反対に、私はまだもうちょっと聞いていたかった……なんて、深見くんの姿さえ見えないキッチンから思う。