基準値きみのキングダム




見間違いなのかと思ったけれど、そうじゃない。アッシュブラウンのゆるくパーマがかかった髪も、色素の薄い瞳も、すうっと通った鼻筋も、深見くんそのものだ。



見慣れないのは着ている作務衣だけ。


藍色の和服の襟からは、くっきりとした鎖骨が見えていて、制服を着ているときよりもなんだか色っぽくて……。




「俺、森下にここのこと話したっけ」

「ううん。私はたまたま買い物に来ただけ。ほら……この前テレビに取り上げられてたから、それで気になって」


「あー、そういうことか」

「ていうか深見くんはなんで……バイト、してるの?」




うちの学校はバイト禁止のはず。

できることなら私だってバイトをして家計の足しにしたいけれど、バレたときのリスクが高いから、勇気が出なかった。




「あー……いや、俺はバイトとかじゃなくて」




深見くんは、照れたように視線をそらす。

困ったように目を泳がせたあとで、観念して口を開いた。




「……ここ、俺の家なんだよ」

「えっ」

「正確には俺の親がやってる店で。自営業だからさ、人件費はなるべく浮かせたいじゃん? それで、週末だけこうやって手伝ってるっていうか……」




あー、と呻いて深見くんはショーケースの上にうなだれる。

伏せた顔、ちらりと覗く耳がほんのり赤い。