基準値きみのキングダム



その番組では、たくさんのこだわりが紹介されていて、美味しそうだったんだ。

専門店というだけあって、きっと安いものではないだろうけど……一度食べてみたいなって思ってたの。



週末なんだし、日頃節約している分、たまの贅沢はあり。

明日はパパも家にいる。パパは冷奴が好きだし……。


うん、いいよね。




「よしっ」



そうと決まれば、とマップアプリを頼りにお豆腐屋さんへと向かう。


歩き始めると本当に近くて、お目当ての「おとうふ深寿庵(みことあん)」にはすぐにたどり着いた。


濃紺ののれんを押し上げて、和風のこじんまりとしたお店のなかに入ると、空調の効いた涼しい空気がすーっと頬を撫でる。




「いらっしゃいま────っ、は?」

「え?」




聞き覚えのある声に顔を上げると、知らない格好をした知っているひとと目が合う。




「『え?』はこっちのセリフなんだけど。……いや、なんで?」




それこそこっちのセリフだ。

どうして深見くんがこんなところにいるの。