基準値きみのキングダム



「それは……その……」



深見くんが、じっと見つめてくる。


まっすぐ透き通った瞳に見つめられると、嘘がゆるされない。

心のまんなかを試されているような気分だ。




「深見くんが、急に、話しかけてくるから」

「から?」

「私なんかに、話しかけて、くるから……そんなのおかしいって思われる、もん。変だって思われる」




深見くんが王子様なら、私は通りすがりの庶民B。

名前も、台詞もない端役。

絵本なら、私がいるのはきっと画面の外で、描かれすらしない。

そんな端役に王子様が話しかけるなんて物語、世界中を探したってどこにもないの。




「はあ? なんで? 意味わかんないんだけど」



なのに、現実の深見くんは、なぜか私の手首を掴まえたまま。

眉にきゅっとシワを刻んだ。




「別になにも変じゃないだろ」

「……!」