基準値きみのキングダム



階段を降りて、あたりを見回す。

どこか、隠れるところ────あ、あった。


掃除用具のロッカー。

ひとまず裏にまわって、息を潜めてやり過ごせば……。



「捕まえた」

「!」



ロッカーに隠れきる前に、きゅ、と勢いよく手首を掴まれた。

ぱ、と振り向くと、深見くんのアッシュブラウンの髪が間近で揺れて、頬にあたる。

思わず、ごく、と息を呑んだ。



「ふは、鬼ごっこかよ」



くっくっく、と深見くんがおかしそうに肩を震わせる。



「あー、久しぶりに全力で走った」

「それは……私も、だよ」



ぜえぜえと荒く息を吐き出す。

こんなに必死に走ったのは小学生ぶりかもしれない。それも、校舎内で、なんて。やっていることが、あまりにも小学生だ。


今さら、恥ずかしくなってくる。

思わずうつむくと。



「あのさ、俺、何かした?」

「え……」

「森下のこと、不快にさせたなら謝る」

「不快には……、なってない、けど」



顔を上げて、ぱちぱち、瞬きすると。

深見くんはわずかに首を傾げた。



「じゃあ、なんで逃げんだよ」

「へ」

「逃げられるようなこと、俺がしたからかと」

「ちが……っ、違う、そういうのじゃないから」



ふるふると首を横に振ると、深見くんはますます怪訝な表情になる。



「なんで逃げたの?」