ひとまず逃げよう。逃げるしかない。


パタパタと足音を響かせながら、廊下を行くあてもなく走っていると、なぜか、足音が二重に響きはじめる。


慌てて振り向くと。




「な、なんで……っ?」



足音の正体は、深見くんだった。
深見くんが、なぜか、私を追いかけてくる。



「なんでこっち来るのっ?!」

「森下が逃げるから、思わず追ってきちゃったんだけど」



なんで?!

追われると、逃げるしかなくなる。
さらに速度を上げてバタバタとダッシュした。
完全に、校則違反だ。


さすがにダッシュすれば諦めてくれるだろうって思ったのに、背後の足音も同じくらいバタバタと大きくなる。



「つ、着いてこないで……!」



おかしい。
こんなはずじゃ……。


深見くんが私なんかを追ってくる理由がまったくわからない。わからないけれど、追われるから、必死で逃げる。



階段をタタタタタ……と駆け下りる途中、踊り場のところで、足が少しもつれて。



────あ、靴が。



脱げる、と思ったときにはもう、左足から上履きが転がり落ちたあとだった。


どうしよう、と一瞬ためらったけれど、容赦なく追いかけてくる深見くんが視界に入ってきて、靴は後回しすることにした。



あとで、拾いに行けばいい。
とりあえず、逃げよう。