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𓈒



翌朝、教室にたどり着いて、ああやっぱり深見くんは遠い世界のひとだ、と思い知った。



深見くんの席のまわりには人垣ができている。

同じクラスのひとも、他クラスのひとも、男の子も、女の子も。

きらきらした輪っかの中心で、深見くんはふわふわと曖昧な笑みを浮かべていた。



それは、毎朝のこと。

もう見慣れた光景だけれど、改めて見ると、やっぱりすごい。



私があの輪っかの一部になることなんて、絶対ない。

ほら、期待なんてできるわけがないよ。
奈央だって、さすがにこれを見たら、納得すると思う。



そんな “王子様” が昨日、我が家にいたなんて、なにかの間違いだ。

現実味がなさすぎて、まぼろしなんじゃないかと本気で思えてきて────。




「あ、森下、おはよ」

「っ?!」




突然、輪っかの真ん中から声が飛んできた。




「おっ、おはようっ?」



反射で挨拶を返したけれど、声が不自然にひっくり返ってしまった。

まさか、輪っかの真ん中にいる深見くんが、私に気づくとも思わなかったし、気づいても声をかけられるとは思わなかった。