基準値きみのキングダム



「だって……深見くんはそういう顔だよ」

「顔って。いや、これマジで。俺料理てんでダメなんだよね」

「うそだ」

「嘘じゃねーんだよ、残念ながら。去年の文化祭で焼きそばのクラス模擬やったんだけどさ、『お前は極力麺に触れるな』とか言われて」




予想外のエピソードに「ふっ」とまた思わず笑う。


ついでに思い出した。去年の焼きそばのクラス模擬って……たしか、深見くん目当ての行列ができたんじゃなかったっけ。


わたしは焼きそばは食べに行かなかったから実際見てはいないけれど、ものすごい噂になっていた。


その “みんなの王子様” が今、この狭い狭いおんぼろアパートにいるなんて、やっぱり、おかしい。



「ごちそうさまでした」



綺麗にお皿を空にした深見くんは、丁寧に手を合わせて、おもむろに立ち上がる。