基準値きみのキングダム



「……!」

「やば、なにこれ」

「え、と」

「めちゃくちゃ美味いんだけど」




ぱくり、ぱくり、と2口3口。
深見くんの箸が忙しなく動く。




「うわ、こっちもうま!」




ふわとろ炒めを口に含んで、おどろいたように。

そんな深見くんの様子に京香がにこにこしながら私を小突く。




「よかったねえ! きょーすけくん、杏ちゃんのおりょーり、おいしいって!」

「はわ……」




頭がなぜだか、パンク寸前で。

なぜか、聞き返してしまう。




「お、おいしい?」

「おいしい、マジで、めちゃくちゃ」

「っ、ほんとに?」

「ほんとだよ」




言葉より行動のほうが雄弁だ。

ぱくぱくと次から次へと口に運んでいく深見くんに、安心して、ほっとしたら、急に力が抜けて。




「よ、かったあ…………」

「はは、森下さ、今、緊張してたろ」

「っ、なんで、わかるの?」

「見たらわかるし。ガッチガチだったじゃん、俺なんか悪いことした気になってたっつーの」

「え」

「森下っていつもそうだよな。緊張するとすっげーガチガチに固まんの、わかりやすくて面白いなーっていつも思ってた」

「いつも……」

「ほら、前出て発表するときとかさ」




息をのむ。
なんで……、わかるの。


緊張しいで、あがり症。
発表なんか、苦手中の苦手。
それでも、頑張ってたつもりなの。



ううん、ちゃんと、頑張れてたはず。
だって、虚勢を張ることだけは得意なのだ。鉄の仮面を貼りつけて、強ばる顔を、みんなは。




『さっすが森下、顔色ひとつ変わんねーじゃん』





みんなは、気づかないのに。

誰ひとり、気づいていないと思ってた、うまくごまかせているならそれでいいやって思ってた、のに。