基準値きみのキングダム




「杏ちゃん! ごはんできたーっ!?」



ちゃぶ台ひとつ。

それを取りかこむようにして、京香、深見くん、奈央の順番に座っている。



きゃっきゃ、とうれしそうな京香の手もとには折り紙が散らかっていて。少し離れていた間に、そうとう深見くんに遊んでもらったみたい。

さっきより、ずいぶん懐いていて、深見くんにべったりだ。





「深見くん、ごめんね……その、任せっきりで」

「いーや、楽しかったから、こちらこそ」





でも、それよりびっくりなのは、いつも誰が来たとしても「我関せず」って感じでマイペースな奈央までもがその輪に入っていることだった。


京香と違って、奈央はけっこう気むずかしいところもあるんだけどな。


コミュニケーション能力の高さなの?
奈央までこの短時間で手なずけてしまったみたい。




「うわ、うまそー」




深見くんが私の手もとをのぞきこむ。

ひえっ、と思わずお皿を取り落としてしまいそうになりながら。




「ほんとっ、ありあわせって感じで、大したことないから……っ」

「いや、マジで、美味そう。これそんなぱぱっと作れるもん? すげえ」




そんな手放しで褒めないでほしい……!!

ぐっとまたハードルが一段高くなった気がして、落ちつかない。ほんとうに、ただ、いつも通りの料理なのに。なんのスペシャル感もないのに。


ぎこちなくあいまいな反応をする私に、助け舟を出してくれたのは奈央だった。




「姉ちゃん、冷めないうちに食べよ」

「は、はい……ええと、じゃあ、どうぞ」

「やったー! いただきまーす!」

「いただきます」




深見くんが丁寧に手を合わせて、箸を持つ。



ほんとうに不思議。

食卓に深見くんがいて、うちの箸を使って、私の料理を────なんて。



深見くんが、チヂミを口に運ぶのを、どきどきしながら見守る。

祈るような気持ちで。どうか、お口に合いますように……って。



ぱくり、と深見くんの口のなかに入っていく。
咀嚼する様子がやけにスローモーションに見えて。




「うっま」