遊んでもらう気満々で、折り紙を床いっぱいに広げはじめる京香。深見くんは首を横に振る。
手伝う、って……私、を?
一緒に料理する、ってこと?
あの狭いキッチンで……。
いやいや、無理無理無理!
「いいっ、深見くんはじっとしててっ! ひとりの方が料理しやすいから……っ!」
あわわわわ、また悪癖が出てしまった。
深見くんと料理なんて緊張でどうにかなりそうだし、そもそもお客さまの深見くんに包丁をにぎらせるわけにはいかない、そう言いたかっただけなのに。
ひねくれた言い方しかできない私にも、深見くんは嫌な顔ひとつせず。
「そう、ほんとに?」
「ほんとだからっ」
「じゃ、任せようかなー」
「ふふーっ、杏ちゃんお料理上手だからだいじょうぶだよー!」
にこにこ笑顔の京香が勝手にハードルを上げていく。
「へえ、上手なんだ」
「うんっ、杏ちゃんのごはんが世界一だもん!」
「それは楽しみだなー」
「それでっ、それでねっ、杏ちゃんってすごいんだよ! この前もね────」
ううう……。
私のことをべた褒めする京香と、それに相槌をうつ深見くんの会話を聞いていられなくて、キッチンに逃げる。
うう、胃が痛い。
頼むから、そんなに期待値を上げないでほしい。
京香が存分に私を慕ってくれているのは、わかるし、うれしいけど……!
京香が思っているほど、私はかんぺきな女の子じゃない。むしろ、足りないところだらけ、それも女の子にいちばん必要ななにかが私にはきっと欠けている。
それに比べて深見くんは、素敵な女の子たちに囲まれて日々を生きているんだから。
私なんかじゃ、どう考えたって不十分。
「はあ……」



