「へ」
なにげなく、深見くんの唇が紡いだ言葉。
たぶん深く考えてない、自然な流れで、ぽん、と肩にふれた大きな手のひら。
……なんで。
「……っ」
なんで、私のことをなんにも知らないはずの、深見くんが、くれるの。私がずっと、欲しかった言葉。
“大変そう” とか “かわいそう” とか同情なんて聞き飽きた。そう言うひとほど、困っているときには結局見ているだけで手のひとつも貸してくれないんだから。
誰も手を貸してくれなくても、がむしゃらに上を向いて歩くから、それをただ、認めてくれさえすれば。
杏奈は頑張ってるよ、ってせめて、それだけでも言ってくれたなら。
そう、思ってた、から。
『頑張ってんだな』
びっくり、してしまった。
深見くんがさらりとその言葉をくれたことも、それがあまりにすとんと私のなかに落っこちてきたことにも。
……どうしよう。
まったくもってそんな流れでもないのに、目頭がふいに熱くなってくる。
なんで、泣いてしまいそうなの、なんで、なんで、こんなとつぜん。
「きょーすけくん! なにしてるのー! こっちこっちー!」
居間の方から、京香の声。
深見くんは呼ばれた方へと向かっていく。
た、助かった……。
こぼれそうになった涙を慌ててごまかして、深見くんの背中を追う。
「きょーすけくん! 杏ちゃんがおりょーりしてる間は、きょーかと遊ぼっ!」
「や、森下、俺もそっち手伝うけど」



