基準値きみのキングダム




そういうもん、なの……?




「じゃ……、食べてく?」

「や、森下次第だけど、ふつうに悪いし」


「わ、私は」

「どうぞ。姉ちゃんに委ねると永遠に玄関止まりっすよ」




言葉に迷っているうちに、奈央がうながしてしまう。

なんで奈央はそう、いつもいつも先回りして……!



ちがう。

優柔不断な私と即決即答の奈央とでは、思考のスピードがそもそもぜんぜん違うだけなのだ。




「おじゃましまーす」




深見くんを家に入れたくないわけじゃない。

むしろ何らかのカタチでお礼ができた方が……。



でも、いざ、うちの敷居をまたぐ深見くんを見ていると、モーレツな違和感におそわれる。



深見くんが私の家にいる?
あの、深見くんが?

これって、どんな状況……?




「森下って3人きょうだいなんだな」

「っ、そう」



玄関先に飾っている写真をじっと見つめる深見くん。

私がまだ中学生のころに、パパと奈央と京香と4人で撮ったもの。京香の七五三のときのだ。




「……深見くんは?」

「俺? きょうだいってこと?」




こくり、頷く。




「どう見える?」

「……年下のきょうだいが、いそう」




なんとなく、だけど。

掴みどころがなくてするりと抜けていく感じ、それでいて人づきあいのうまいあの感じ。空気を読むのがうまいんだと思う。



それが、なんとなく、きょうだいのなかでも年上っぽいというか、年長者っぽいふるまいのような────。




「残念、俺はひとりっ子」

「そう、なんだ」

「ま、でも、年下のイトコがいるからなー、ほぼきょうだいみたいなもんか」




深見くんはまだじっと写真を見つめている。

そんなに気になるものでもうつって────ああ、そうか。



うつって、ないからか。


たぶん尋ねにくいことだから、聞かずにいてくれているんだろうけど、べつに隠すことでもないし……。




「母は、もういないの。京香のときがすごく難産で、それで────……」

「そっか」




深見くんがこちらを振り向く。


わ、わ。
近い、そっか、近いんだ。


深見くんの色素のうすい瞳が私をまっすぐに見下ろしている。ドギマギするのもおこがましいくらい綺麗で────でも、やっぱりドギマギしてしまう。



というか、深見くんって、こんな、身長高かったんだ。

近距離で並んでみるとよくわかる。




「森下、頑張ってんだな」