基準値きみのキングダム



「は」

「えっ、あっ」



固まる深見くんに焦って、さらに口がすべってく。



「あのねっ、これから夕ごはんつくるところだったから、よかったらうちで食べていかないかなーって、ほら、荷物運んでもらったし……えと」



ぺらぺらとまくし立てているうちに、冷静になってくる。

そして、冷静になると。

何言っちゃってるの、私……!!


マトモに話したこともないクラスメイトを家に上げて、手料理を食べさせるなんて、厚かましいよね。ふつうに困るに決まってる。それに。



「ご、ごめん。変なこと言った……。深見くんも家でごはん作ってくれてるだろうし」




家に帰ればきっと、親の作った夕ごはんが待っている。

料理の大変さがそれなりにわかっているからこそ、こうして突然ごはんに誘うのは気が引ける。



「じゃあ、ええと、また明日学校で────」




ひとり色々先走ったり、撤回したり、恥ずかしい。

ひらひらと手を振って、深見くんを見送ろうとすると。



「いいの?」



ぎゅ、と手首をつかまれた。

強くない、痛くない、けれどそれ以上の衝撃で体がカチコチに固まってしまう。




「正直、めちゃくちゃ腹減ってるんだよなー」

「……え」

「森下がいいって言うんなら、食ってっていい?」

「え、あ」




動揺して、口をはくはくさせる。
そんな私が答えるより先に。




「いーっすよ、上がってってください」

「ちょ、奈央、待っ」

「うち狭いっすけど」




なんで、奈央が話を進めるの……!!


深見くんをあっさり招き入れようとする奈央をぐいーっと押しのける。すると、不満気なジト目が追いかけてきた。



「なんだよ。姉ちゃんが最初に言い出したんじゃん」

「っ、だって! 深見くんだってお家でごはん食べるでしょっ」



ねっ、と思わず深見くんに同意をとってしまう。



「……いや、今食べても、家で夕飯ふつーに食える」

「えっ、うそ」

「男子高校生の胃袋ってそーいうもん」