一生大切にします、なんて、杏奈の父さんにはまだ言えない。
幸せにします、なんて、大学生の俺が簡単に口にしていい言葉じゃないから、まだ言わない。
────だけど、なりたいと思う。
いつか、大切にしたいものを、大切にしたい誰かを、自信を持って「大切にする」と宣言できるような、大人になりたい。
頑張んなきゃな、と気が引き締まる。
そしていつか、一生を誓うなら、杏奈がいい。
きらめくダイヤを薬指に贈って、あたりまえのように隣にいる未来図を描きたい。
「杏奈……さんって、お父さんのこと、かなり慕ってますよね」
ふと思いついたことを口にする。
さっき、杏奈の父さんは、杏奈になにも与えてやれなかった的なことを言っていたけどさ。
「……そうか?」
「ミョウガの甘酢漬け。お父さんのためにたくさん漬けるんだって、にこにこしてたから」
「そうか。……はは、これは嬉しいことを聞いたな」
杏奈は与えられた愛を正しく受けとって、だからこそ、それを返すためにずっと強がってきたんだろうなと思う。
森下家は、杏奈と父さんの二人三脚で守ってきたんだろう。
相好を崩した杏奈の父さんが、上機嫌に俺の顔を覗き込む。
「そうだ、見るか? 杏奈の小さい頃のアルバム、たくさんあるんだよ」
「え。いいんですか?」
杏奈の父さんもろとも「勝手にひとの写真見るなんて……!」と、後ほど真っ赤になった杏奈に叱られることになるのは、十数分後のこと。



