「いや……、ありがとうは、こっちの台詞です」
杏奈が好きになってくれたのが、俺でよかった。
甘えられる場所になれているのだとしたら、その場所に、俺を選んでくれてよかった。
俺だけが特別なわけじゃないと思う。
杏奈のいいところなんていっぱいあって、そこに気づく男なんて、たぶんそういう奴が現れる機会はたくさんあって……今、俺がそばにいられているのは、たまたまかもしれない。
そもそも、告白から付き合うまでに至るあれこれが、わりと強引だった自覚はある。
俺が、どうしても、杏奈がよかったから。
「杏奈────さんといると、前向きになれるんです。不器用だけど、どこまでもひたむきで、負けてらんないなって思うんです。……あと、めちゃくちゃ、かわいいですよね」
「ははは。杏奈は妻に似ているからね、わかるよ」
懐かしいな、と呟いた杏奈の父さんは、また薬指の指輪をくるりと回した。
いつか、永遠の愛を誓ったリング。
一生を誓うって、どんな感じなんだろうか。



