基準値きみのキングダム




「おー、京香ただいま。それから奈央も元気にしてたか? いやあ、久しぶりだな、会いたくて会いたくて死にかけながら働いて────そうだ、帰りに杏奈が好きな赤飯まんじゅうを買ってきたんだ。みんなで食べよ────……ん?」





ぱちり、目が合う。


かっちりとしたスーツが似合う、落ちついた雰囲気の大人の男の人は、そのアーモンドアイで俺を捉えて怪訝な顔をする。





「ええと、あなたは……」





ぴりっと走った緊張に、思わず唾をのむ。


いつかそういう機会はあるだろうと思ってはいたけれど、こうも突然顔を合わせることになるなんて、聞いてない。


心の準備もままならないまま、口を開く。





「こんにちは、……はじめまして。深見恭介といいます。俺は────」





ぱたぱたと後ろから駆け寄ってくる足音。

キッチンから玄関にまっすぐ向かってきたそれは、杏奈のもの。



そして、俺が言葉を続けるより先に。





「パパ、おかえり。それから、きょ、深見くんは私がお付き合いしている人、なの」





はにかんで、でもはっきりとそう口にした杏奈に、心臓がドクッと波打つ。そして訪れた一瞬の沈黙、のち。





「えええ!」





驚いて声を上げた杏奈の父さんは、革の鞄をドサッと取り落とした。