𓐍
𓈒


あろうことか、深見くんの目の前で。

トンデモ発言をした奈央の口を慌ててふさぐ。



「だって姉ちゃんが男連れてくるとか────もがもごっ」

「もう〜〜〜っ! お願いだから、奈央は黙って!」

「わあ! 杏ちゃん耳まっかっか!」




悪気のない京香の指摘に、さらにいたたまれなくなる。

思わず耳を両手で隠してその場にへなへなへたりこんだ。



それもこれも、奈央がおかしなことを言うからだよ。


彼氏、なんて。
……そんなはず、あるわけないのに。




私に口封じされた奈央をのぞきこんで、「なーくん、だいじょうぶ?」と京香が心配そうに首を傾げていて、奈央はこくこく、と頷いた。

まったく仲良し兄妹に育ったものだ。



ほんとうなら微笑ましい光景なのだけど、今はそれどころじゃない。

深見くんが呆気にとられているのに気づいて、慌てて立ち上がる。


仕切り直しさせてほしい。
ごほ、と咳払いをして。



「ええと、こちらは弟の奈央。今、中学2年生なんだ」




奈央がぺこりと頭を下げる。


そういう礼儀正しい態度をとれるなら、最初からちゃんとそうしてくれればよかったのに……!

と、心のなかで毒づいてしまうけれど、奈央は素知らぬ顔だ。




「そして、こっちは深見くん。クラスメイトです」

「はじめましてー」




深見くんはゆるく口角をあげて、奈央に会釈する。

奈央はどういうわけか、値踏みするみたく深見くんの頭のてっぺんからつま先までジロジロと失礼なくらい見わたしたあと。



「ふーん、なんだ、彼氏じゃねーのか」

「……っ!」




もうもうもう!!!

なんですぐそういうこと言うの。
最近食べる量がびっくりするくらい増えて、体もおっきくなったな、とは思っていたけれど口もこんなに達者になっていたなんて。



深見くんからは絶妙に見えない位置で、ぽかり、と奈央の脇腹に軽くパンチをお見舞いしておく。




「ほんとにっ、ふつうのクラスメイトだから……! 勘違いしないでよ、深見くんに迷惑だし!」



ちゃんと、きっぱり否定しておかなきゃ。


厳しめの口調で奈央に言いつけたうしろで、深見くんがちょっと眉をひそめていたなんて、私はもちろん知る由もなく。