「つうか、椋、お前、何の用?」
「えー? そりゃあ、カワイイカワイイ杏奈ちゃんを口説きにー」
近衛くんの言う「かわいい」は、わかりやすく冗談だ。
恭介の言うそれとはまったく違って、100パーセントからかっているんだって、すぐわかる。
そして、からからわれているのは私じゃなくて────。
「帰れ。てか、杏奈に絡むな、じろじろ見んな」
恭介の手のひらが、私の両耳をやわらかく塞ぐ。
近衛くんの言葉をこれ以上聞かせまいとするように。
「うわー、相変わらず、心せまー」
にやにやと笑う近衛くんがからかっているのは、恭介で間違いない。
文化祭、恭介と私が付き合いはじめてからというもの、近衛くんはいっそう積極的に私に話しかけてくるようになったんだよね。
そして、その都度 恭介の反応を見て、楽しんでいる。
それは、卒業しても続くみたいだ。



