基準値きみのキングダム




なにか返事するより先に、ふっと肩が軽くなった。

おどろいて見上げれば、深見くんがひょいと軽々しく私のエコバッグを手にしている。



「ちょ……っ、待っ」

「森下、家どっち?」

「へ? えと、この道を右だけど────っ、じゃなくて!」

「おけ、右な」

「ちょっと、深見くん!」



ぐい、と袖をつかんで、引けば。



「なに?」



しれっとした顔で振り向いてくる。
なに? じゃないよ。確信犯のくせに。



「返してよっ、それ!」

「こんなん持ってたら、森下つぶれるだろ」

「つぶれない! 屈強だから! 私!」

「ぶはっ」




どこが面白かったのか、深見くんは腰を折って、ぷるぷると大袈裟に肩をふるわせる。




「屈強って。そんなほっせー腕して何言ってんだよ」




深見くんの視線が私の二の腕から手首にかけて、つう、とすべる。



うそだ。

私より細い女の子なんていっぱいいるもん。
それこそ、ほんとうに折れちゃいそうな、守ってあげたくなる小動物みたいな女の子たち。


私がそんな女の子じゃないことは、私がいちばんわかってるんだから。




「私、そんなかよわくないよ」

「そうだとしても、見てらんねーんだわ。ふらふらの足取りだったろ」

「……気のせいだもん」


「わーったよ、気のせいにしとく。で、俺が勝手な判断で、これは持たせてもらう」

「へ」

「家まで送る、ってことだよ」