基準値きみのキングダム



そう、だよ。

いっときのバグとしか思えないの。



うつむくと、「チッ」と激しめの舌打ちの音がした。

普段の上林さんならありえない。




「なにそれ、そんな理由で逃げてるの」

「……だ、って」



「だってもこうもない。なんでそうなるのっ? 傍から見てたってわかるくらい、どうしようもないくらい、恭介くんは杏奈のことばっか見てたじゃん!!」




上林さんが声を張り上げる。

私たちの他に誰もいない体育館に、その力強い声が反響した。




「美沙の方が……っ、美沙の方が、ぜったい可愛いし、そのための努力だってした! 愛嬌だってあるし、恭介くんのことずーっと前から好きなのに!」

「……知ってる、よ」




だから、上林さんの方がふさわしい。



そう続けようとした私を「何もわかってない」とぶった切って、上林さんは私をキッと睨む。