基準値きみのキングダム




助けてもらった自覚のない京香はきょとんと小首を傾げて。

それでも私が促すと。




「ええと……、王子さま、ありがとう?」

「はは、どーいたしまして」




京香の目線までしゃがみこんだ深見くんは、わしゃわしゃっと京香の頭をなでる。


わ、優しい目。

柔らかく下がった目尻に、どきっとしてしまった。




「森下?」

「っ、わ」




思わず見つめてしまっていた。

不思議そうにする深見くんに、どう反応するのが正解か、わからなくて。




「じゃっ、じゃあ、私レジに行くから!」

「……? おー」




慌てて、くるり、踵を返す。
そして、また後悔するのだ。




「杏ちゃん?」

「京香……、私ってどうしていつもこうなんだろうね……」


「ええ? 杏ちゃんはいつでもかんぺきな杏ちゃんだよ?」




かんぺきな杏ちゃん、って何なんだ。

それはそれはかわいい京香に言われると、もちろんうれしいけれど、でも!

叶うならば、私は、京香みたいな愛嬌たっぷりな女の子になりたいよ。



あそこで、ちょっとした雑談もできずに、そそくさと逃げてきちゃうなんて、ぜったいに感じ悪いって思われたよね……。



それに、京香には『ちゃんとお礼を言うように!』なんてえらそうにお姉ちゃんぶって言うくせに、私のほうはどうなんだって話だよ。



アンケートの集計を手伝ってもらったことも、今さっき京香を助けてもらったことも、私は『ありがとう』のひとことさえまともに伝えられない。