基準値きみのキングダム



𓐍
𓈒



「杏ちゃん杏ちゃん! きょーか、アイス食べたい〜っ!」

「ええ……、アイス?」

「うんっ、アイス! ……だめ?」




タイムセール真っ最中のスーパーにて。

お目当ての卵と牛乳をゲット(3割引! やったね!)して、買い物カゴを手にレジへと向かおうとしたのだけれど。



京香の “アイス攻撃” を食らってしまった。

7歳児とは思えない腕力で、私の腕をぐいぐい引いてくる。




……うーん、どうしたものか。

正直、今月の食費はかなりギリギリ。もやし、もやし、もやしのオンパレードでなんとか切りつめていて。


頭のなかでぱちぱちとそろばんを弾いてみるけれど、やっぱり、どう考えても家計は赤字ギリギリすれすれ。




────でも。

京香と、それから奈央も。

しばらくおやつナシで我慢ばっかりだったもんね。ちょっとくらいの贅沢はさせてあげたいし……と考えたところで、京香のきゅるきゅるの瞳とばっちり目が合って。



あまりのかわいさに、ぐらぐらだった天秤は一瞬で傾いた。





「今日だけ、特別だよ?」

「いいの!? やったあ!!」




京香がぴょんと跳ね上がる。
かわいい。



「その代わり、1個だけだからね」

「好きなの選んでいいのっ?」

「うん。京香のと、それから奈央の分でふたつ、選んできてくれる?」


「杏ちゃんは? アイス、食べないの?」

「うん、お姉ちゃんはアイス食べるとお腹壊しちゃうかもしれないもん」


「ええっ、うそだあ!」

「ほら、ふたつ選んでおいで」




とん、と背中を押してアイス売り場に送り出せば。




「がってんしょうち!」




最近妙にはまっているらしい、謎の決めゼリフとともに、京香はダダダダッと駆け出していく。


うーん、危なっかしいな。