基準値きみのキングダム




「あ、うん、もう大丈夫。熱もないし、だるくもないよ。喉はまだちょっとイガイガするけれど……」


「それ、ほんとに大丈夫なのかよ」




深見くんは目を細めて、私の顔を横から覗き込んでくる。



ち、近い。


心臓がばくんと跳ねて、慌てて後ずさって深見くんから距離をとった。




「元気だよっ! おかげさまで────」




思い出して、かあ、と頬が熱を持つ。



お見舞いに来てくれた深見くんの前で、さらしてしまった醜態のこと。

自分でもびっくりするくらい泣きじゃくってしまったことは、冷静になって思い返せば、恥ずかしくてたまらなくて。



忘れようって決めたのに、思い出してしまった、最悪だ。




げんなりした気持ちは、次の瞬間、吹き飛んで消える。





「なら良かった」





ふ、と深見くんの口元がゆるんで、唇が三日月を描く。

柔らかい笑顔に釘付けになった。