基準値きみのキングダム




「いいから。無理に食わなくて」

「違うよ。食べたいから食べるの」

「は? 不味いのに?」




こくっと頷けば、深見くんは心配そうな顔をしながらも、ひと口、またひと口と雑炊を食べさせてくれた。



食べているうちに、塩辛い味付けにも慣れてくる。



だからって、お世辞にも美味しいとは言えないけれど……。

でも、たしかに、じんわり染み渡ってくるものがあって。




思えば、いつぶりかな。

誰かが私のために作ってくれたごはんを食べるのなんて。




「……っ」




料理は苦手だって公言している深見くんが、それでも、私のためにキッチンに立ってくれた。

きっと、慣れていない手つきで、おぼつかない段取りで、レシピを見ながら作ってくれたんだ。


風邪をひいた私のことを、思って。




不器用な塩加減の雑炊には、私のための温かさがあった。


ひと口ひと口、食べ進めていく度に何かがこみ上げてきて、次第に目頭が熱くなる。

視界がじわっとぼやけて、間違ってもこぼれ落ちないように必死に力を入れた。




「……あ、そういえば」

「……?」

「りんごも切ったんだった。ほんとは食後にって思ってたけど、雑炊辛いし、口直しに持ってくる」